第6回[業界事情]木桶と醤油業界

〜 第6回 〜
[業界事情]木桶と醤油業界

職人醤油 高橋万太郎

職人醤油 代表 高橋万太郎
全国400以上の醤油蔵を訪問し、セレクトした醤油を販売する「職人醤油」代表。前橋本店のほか東京の松屋銀座店にも出店している。

今回は、「木桶と醤油業界」についてお話させていただきます。
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30年ほど前は木桶は捨てられる存在でしたが、今は木桶で仕込みたい蔵元が増えてきています。問題は10年程前に大桶職人がほぼいなくなっていたこと。小豆島の蔵元が立ち上がって木桶づくり復活の取り組みがスタートし、それにより、業界内に動きが生まれ、国内より世界から注目されています。

木桶仕込みが絶滅の危機に瀕していた

「木桶でつくられている醤油」ってどんなイメージがありますか?現代の感覚だと、「伝統的な製法っぽくてすごい」「こだわりって感じでおいしそう」などプラスな印象を抱いていただけるかもしれません。でも、30~40年前の醤油メーカーの立場からすると、「恥ずかしいもの」という印象だったそうです。ちょっと不思議ですよね。私もそう思って、どうしてですかと質問したことがあります。当時は日本全体が経済発展をしている真っ只中、醤油メーカーも機械を導入することで生産効率をあげていました。「最新の設備を入れた同業者が羨ましかったですよ。でも、うちはお金がなくてね…。木桶は時代遅れの象徴のようで…」と、話を聞いたこともあります。さらに木桶の寿命は100年~150年程、今、現役で使われている木桶に明治や大正の文字が書かれていたりもします。つまり、この半世紀の間に、新たに木桶をつくるニーズは皆無でした。そのため、その木桶をつくる職人の仕事が激減し、2010年頃には大きな木桶を組むことができる職人はほとんど残っていませんでした。

木桶も醤油もつくる醤油蔵がはじめた取り組み ヤマロク醤油
香川県小豆島町

2011年にヤマロク醤油の山本康夫さんから電話をもらいました。「木桶職人のところに修行に行こうと思うんですよ」という内容に、「なんですか?!それ。おもしろそうですね」というやりとりをしながら、取材を兼ねて私も大阪府堺市のその現場に取材にいくことにしました。藤井製桶所は当時、ほぼ唯一の大桶がつくれる桶職人集団です。木の削り方、板のあわせ方、竹で箍を編む方法など、一通りの手ほどきをしてもらいました。そして、その翌年からヤマロク醤油での木桶づくりがスタート。ここで山本さんがとった行動は、同じように木桶仕込みをしている醤油メーカーに声をかけることでした。木桶醤油の流通量は全体の1%程度です。その小さな市場を数百の醤油メーカーで奪い合うのではなくて、みんなで1%を2%に拡大していこうという取り組み。木桶醤油に多くの人が魅力を感じてくれれば、結果として木桶職人も増えてくる。木桶職人復活プロジェクトがスタートし、それ以降、毎年1月にヤマロク醤油のある小豆島で木桶づくりを続けています。

木桶を通して蔵元同士が繋がっていく 弓削多醤油
埼玉県日高市

埼玉県日高市に「醤遊王国」という醤油づくりの見学ができる施設があります。弓削多醤油の工場も兼ねていて、直営店や飲食スペースもあります。顧客を蔵の中に迎え入れるスタイルは、2006年のオープン当時の醤油業界では珍しく、同業者も見学に訪れたそうです。また、火入れをしていない生の醤油を「吟醸純生しょうゆ」として商品化したり、有機JASの認証マークをつけた醤油を手掛けたりと、新しい取り組みへの挑戦を続けている蔵元です。実は先の「木桶職人復活プロジェクト」、ヤマロク醤油の山本さんが呼び掛けても、最初はなかなか人が集まりませんでした。元々、醤油業界にはお互いの蔵の中に入ることに抵抗感をもっている人がいたことも事実です。でも、弓削多洋一さんは颯爽とやってきて一緒に作業をしていました。「誰か買ってくれないかな?」という山本さんのつぶやきに、「じゃあ、ぼくが買うよ」と答えたのも弓削多さん。小豆島でつくられた木桶の中から初めて島外に届けられたのが弓削多醤油で、今でも醤油を醸しています。

白醤油を追求してうまれた「しろたまり」。それを仕込むのも木桶。 日東醸造
愛知県碧南市

愛知県の日東醸造にも小豆島でつくられた木桶が届けられました。この日東醸造も個性的なメーカーで、主力商品はなんと白醤油。小麦が主原料の琥珀色をした醤油です。社長の蜷川洋一さんはさらにユニークな方で、先代とともに白醤油を追求した「しろたまり」という商品づくり挑みます。大豆をまったく使用せずに、小麦麹の量は2倍、さらには、良質な水を求めて本社工場から車で1時間以上の距離にある土地に専用の仕込み蔵を用意してしまいます。そこに並ぶのはもちろん木桶。日東醸造のホームページの「広報しろたまり」には「新桶を自分の蔵に入れたとき、遠い昔の子供のころ、新しいおもちゃを買ってもらったときのような興奮を思い出しました。撫でさすりながらニヤニヤする…」と書かれています。木桶の特徴は、醤油を醸す微生物が住み着けること。その蔵元によって独特の生態系がつくられることで、その蔵にしかできない味になりますが、管理や品質の維持のためにコストも手間もかかります。でも、それを上回る魅力が木桶にはあるように感じてしまいます。

木桶にまつわる話はまだまだたくさんあります。一時期は「恥ずかしい」といわれていた木桶ですが、特に若手の醸造家を中心に盛り上がりをみせています。クラフトビールの人気とも通じているように感じていて、醤油にも個性を出していきたい、そのために木桶で仕込みたい。そんな想いが根底にある気がしています。

今回ご紹介する商品はコレ!

木桶仕込みの醤油3本セット
¥1,350(税込)

それぞれ異なる蔵元が手掛ける醤油で、醤油の地域による個性を感じていただける醤油をセレクトしました。

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鶴醤

鶴醤(ヤマロク醤油

おすすめの使い方:バニラアイス、ポークステーキ

深いコクとまろやかさの極限までの追求。約2年の熟成期間を経た生醤油を、さらに2年間ほど仕込む。ステーキにあわせると肉本来の味に出会えます。バニラアイスにも◎。
木桶仕込しょうゆ

木桶仕込しょうゆ(弓削多醤油

おすすめの使い方:納豆、餃子

国産大豆使用で入門編としておすすめしたい万能タイプ。舌の上にしょっぱさだけが残らないのがしっかり熟成されている証。かけ醤油から調理まで使い勝手の安心感があります。
しろたまり

しろたまり(日東醸造

おすすめの使い方:卵焼き、お吸い物、炊き込みご飯

原材料は小麦と塩と焼酎のみ。白醤油としての味と風味を追求し、大豆を抜いて仕込水を半分に。その結果、大豆を使っていないため「醤油」とは表現できず「小麦醸造調味料」という表記になっていますが、素材の色や風味をしっかりと活かしてくれます。