第7回[業界事情]表示の情報に惑わされていない?原材料と添加物のお話

〜 第7回 〜
[業界事情]表示の情報に惑わされていない?原材料と添加物のお話

職人醤油 高橋万太郎

職人醤油 代表 高橋万太郎
全国400以上の醤油蔵を訪問し、セレクトした醤油を販売する「職人醤油」代表。前橋本店のほか東京の松屋銀座店にも出店している。

今回は、醤油のラベルに書かれている情報についてのお話です。
前回まではこちら

商品ラベルの後ろ側に、生産者や原材料などの情報が書かれていますよね。「一括表示」とよばれるものです。中でもよく見られるのは原材料についてではないでしょうか。醤油の基本の原材料は大豆、小麦、食塩ですが、それ以外の表記があると、「余計なものが入っている!」と悪く見られがちなように感じています。確かに、私自身も醤油の世界に飛び込んだばかりの頃は、「原材料がシンプル=よい醤油」と思い込んでいましたが、実際に現場を訪問していると、それは一つの面しか見ていないことに気づきました。と、そんなお話です。

脱脂加工大豆は悪いもの?

脱脂加工大豆は悪いもの?

まずは脱脂加工大豆。聞きなれない名前かもしれませんが、流通している醤油の約8割は脱脂加工大豆からつくられています。大豆から油分を取り除いたもので、うま味の元になるタンパク質を多く含んでいます。形状も平らにつぶされたフレーク状。吸水性もよく分解されやすい状態になっているので、効率的に醤油をつくるには適しています。

ところが、この脱脂加工大豆、世間の印象はよくありません。「大豆の搾り粕だ」「脱脂加工大豆の醤油は買ってはいけない」そんな表現を目にすることもあります。確かに、大豆から油を取り除く過程でヘキサンという溶剤で溶かす工程があります。その後に中和させるので人体には影響はないとされていますが、使用しているという事実があるのは確かです。一方で、醤油の生産者に「丸大豆と脱脂加工大豆、どちらがうま味の高い醤油がつくれるか?」と質問すると、皆が脱脂加工大豆と答えるはずです。うま味の高い醤油をつくることにかけては優秀な存在であることも事実だと思います。

両方にメリットとデメリットがあるわけですが、それらを踏まえて、生産者がどのような考えで原材料を選んでいるかが大切だと思います。お客様に誰がつくった大豆かを説明したいから丸大豆。できる限りうま味の高い醤油をつくりたいから脱脂加工大豆。大豆の油分がまろやかさを与えてくれるから丸大豆などという声がある反面、丸大豆という表記があると高く売れるからという生産者もいます。これらはラべルから読み取ることはできないのですが、少なくとも、丸大豆だからよい醤油、脱脂加工大豆だから悪い醤油という画一的な判断はできないと感じています。

甘い醤油によく使われるアミノ酸液や甘味料って?

甘い醤油によく使われるアミノ酸液や甘味料って?

九州や北陸などの甘い醤油でよく目にするのがアミノ酸液です。液体のうま味調味料のようなものです。穀物などを酸分解してつくられるもので、甘味料などと一緒に使われることが多く、原材料表示にはたくさんの記載が連なります。すると、「添加物が入っている醤油はだめ」と、また悪者にされやすいのです。確かに、戦後の時代など、物資が不足している時代には化学的な技術を使い、より安価に生産をしていたことはあったと思います。ただ、現代は原材料の質も生産技術もかなり向上しています。生産コストだけの目的でアミノ酸液や添加物を使っているメーカーはごく少数派のように感じます。

アミノ酸液を使っているメーカーの多くは、「大豆、小麦、食塩」のみからつくられた醤油に、アミノ酸液や甘味料を加えて味付けをしています。つまり、味付けをせずにシンプルな原材料の状態で出荷することは容易で、どのメーカーでも「大豆、小麦、食塩」のみの醤油は簡単につくることができる時代になっています。では、甘みをつける理由は何かというと、地元の顧客のニーズです。

例えば、九州で育った多くの方にとっては、関東の醤油はしょっぱくて辛い、醤油は甘いものといわれる程に好みが異なるものです。それらの声にこたえるために使われるアミノ酸液や甘味料を一方的に否定はできないと感じています。

アルコールが入っている理由は?

アルコールが入っている理由は?

アルコールも悪者にされやすい存在です。「大豆、小麦、食塩、アルコール」などと表記されている場合ですね。そもそも、なぜアルコールを入れるのか?と考えることがポイントです。アルコールを入れる大きな目的の一つは白カビの予防です。産膜酵母という酵母菌の一種で、人体にはとっては無害なのですが、醤油の風味を劣化させてしまうので避けたい存在です。

産膜酵母を抑制する要因は3つあって、うま味成分が高いこと、アルコール濃度が高いこと、塩分が高いことです。この3つの要素のバランスで産膜酵母の発生を抑えることができます。逆に、どれかが低い場合は、他の2つを高める必要があります。少し極端な話になりますが、ラベルの表示を「大豆、小麦、食塩」だけにしたいのであれば、塩分をぐっと高くすればアルコールを添加する必要はなくなります。

塩分濃度はぎりぎりまで低くしたいからアルコールを添加しているよという生産者がいたりもするんです。このようなおいしさを考えての使用についても、アルコール入っているからだめな醤油と頭ごなしに否定したくはないと感じています。

少し難しい話になってしまいましたが、お伝えしたいことは、ラベルの表示だけで良い悪いの判断はできないということです。ただ、ラベル情報からはそれ以上の生産者の意思は読み取ることはできず、その点はとても歯がゆいのですが、でも、金儲けのために生産コストを限界以上に切り詰める、そのために脱脂加工大豆やアミノ酸液やアルコールを使っている生産者はごくごく少数だと思います。基本的にはお客様に喜んでもらいたい、おいしいといってもらいたい、よいものをつくりたいという前提でものづくりをしていると思います。

また、生産者の側も、ラベルに記載される情報だけではなくて、もっと用途提案を含めた使い方の主張をしていくべきだと感じています。そんな生産者の事例をご紹介したいと思います。

九州の甘い醤油に一年熟成の醤油を使っています 長友味噌醤油醸造元
宮崎県宮崎市

南国の地、宮崎県は九州の中でも甘みが強い醤油が好まれています。長友味噌醤油醸造元の塩見さんご夫妻は家業に戻る前はシンガポール在住。「直線距離で測ると、東京よりアジアが近いですからね」と積極的に海外にも出向いていて、現地では醤油も味噌も大人気だそうです。その醤油づくりのベースとなる麹造りも自社で手がけることができ、先代が頑なに守り続けたものを大切にしています。宮崎県も北の方は比較的しょっぱさのある醤油が好まれ、南はより甘い醤油が好まれるそうです。「ここはちょうど中間の甘さだと思うのですが、地元の方に愛され続ける醤油を造りたい。どこに出しても恥ずかしくない甘い醤油をつくりたい。」と力強く語る塩見さんは語っていました。

子供が朝ごはんを食べるようにと開発した玉子かけご飯の専用醤油 橋本醤油
熊本県熊本市

玉子かけご飯の専用醤油といえば、いろいろなメーカーが手掛けていて、目にする機会も多いと思いますが、最初に手掛けたとされるのが熊本県の橋本醤油です。今は会長になっている橋本和彦さんがPTAの役員を務めていた時。ふと元気のない子供たちに声をかけると、朝食を食べていないことが判明。味噌醤油の造り手である橋本さんは、その大切さを実感しているからこそ親に訴えるも、なかなか効果が見られなかったそうです。「よし、それなら発想を変えて、子供が朝ごはんを食べたい!と言うようにしよう!」そこで思いついたのが玉子かけごはんというわけです。「二杯目のご飯が食べたくなる」を目指して試行錯誤を繰り返した商品は、すっかり橋本醤油の看板商品になっています。

バターしょうゆご飯は昔の贅沢品 有田屋
群馬県安中市

群馬で180年の歴史をもつ醤油蔵である有田屋。国産丸大豆を使った天然醸造醤油が看板商品で、商品数の絞り込み方は潔いほどです。その人気商品の一つが「バタめししょうゆ」。その名の通りバターご飯に使ってほしいというコンセプトで、アツアツのごはんにバターとこの醤油をかけてというわけです。一般的には卵かけご飯よりはマイナーな存在かもしれませんが、有田屋の家系ではバターしょうゆごはんが好まれていたそうで、自家製レシピを商品化したものが気づけば人気商品に。「バターは動物系の素材なので、魚介系の出汁は使いたくないんです」と用途を絞り込んだが故に人気を博した例のようにも感じます。

今回ご紹介する商品はコレ!

甘い醤油と醤油加工品3本セット
¥1,296(税込)

それぞれ異なる蔵元が手掛ける醤油で、醤油の地域による個性を感じていただける醤油をセレクトしました。

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カネナしょうゆ

カネナしょうゆ(長友味噌醤油醸造元

おすすめの使い方:おかか、煮物

九州の中でも比較的甘めですが、どろっとではなく、さらっとタイプ。肉巻きおにぎりや魚の煮つけなど。山葵や生姜の薬味を添えても。醤油をそのままなめるととても甘いのですが、おかかにするとそれほど甘さが前面に出てこないというか、おかかとの一体感が見事です。
玉子ごはん専用

玉子ごはん専用(橋本醤油

おすすめの使い方:玉子かけごはん、ぶっかけうどん

日本で最初に開発された、元祖玉子ごはん専用醤油。まろやかな昆布だしのうまみ、オリゴ糖による優しい甘みが特徴。味わってほしいのは醤油ではなく卵やごはんのおいしさなので、卵やごはんの自然な甘みを邪魔しないように優しい甘さを追求し続け6年もの歳月を経て商品化されました。
バタめししょうゆ

バタめししょうゆ(有田屋

おすすめの使い方:バターごはん、バターコーン

群馬で180年の歴史をもつ醤油蔵で代々愛されてきたバター醤油ご飯。そのレシピを商品化したところ人気商品になりました。国産丸大豆醤油に本みりん・料理酒をブレンド。アツアツのごはんの上にバターをのせてかけるのはもちろん、バターを使う料理にもおすすめです。