第5回[業界事情]醤油にサードウェーブが来ている

〜 第5回 〜
[業界事情]醤油にサードウェーブが来ている

職人醤油 高橋万太郎

職人醤油 代表 高橋万太郎
全国400以上の醤油蔵を訪問し、セレクトした醤油を販売する「職人醤油」代表。前橋本店のほか東京の松屋銀座店にも出店している。

今回は、醤油業界のサードウェーブについてお話させていただきます。
前回まではこちら

醤油に求められていることが変わっている

先日、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんと話をしていた時、「つまり、醤油業界にサードウェーブが来ているんだね」の一言に確かにそうだなと感じた一幕がありました。コーヒー業界の変遷になぞらえたものです。ファーストウェーブとされるのがインスタントコーヒーの登場などによって、家庭でもコーヒーが飲まれるようになった時代。大量生産、大量消費の流れですね。そして、セカンドウェーブがスターバックスコーヒーに代表されるような高品質の風味や味わいを重視する流れ。そして、サードウェーブとされるのがコーヒー豆の産地や栽培方法から品質管理などのトレーサビリティが明確であることの流れと、大まかに捉えてこの変化を醤油業界に当てはめてみると、なかなかおもしろいのです。戦後の機械化と量産化に向けた動きがファーストウェーブでしょうか。続いて、国産丸大豆醤油などに代表される原材料や製法が注目された動き、安全安心のキーワードが強調されたのも同じタイミングだと思います。これがセカンドウェーブ。そして、サードウェーブは何か?ということですが、誰がどこでつくっているかなどの「個性」や「多様性」が大事なキーワードになるように感じています。今回はそんなテーマで3つの蔵元をご紹介したいと思います。

ちくわと醤油の老舗メーカーのコラボレーション ヤマサちくわ
愛知県豊橋市

ヤマサちくわといえば、愛知県豊橋市では誰もが知っているちくわの老舗メーカーです。その原材料としては使われている「えそ」という魚があります。硬い小骨が多く一般的な調理には向かないそうですが、淡泊な味でありながら歯ごたえがあって、練り製品の高級魚とされています。それらのちくわに加工されない部分、一部は廃棄されていたそうですが、「もったいない」という現場の意見から生まれた魚醤があります。しかも、一般的な魚醤は魚くさいという印象をお持ちの方が多いと思いますが、この魚臭さを改善した魚醤です。イチビキという、これまた愛知県では誰もが知っている醤油メーカーとの共同開発の商品。一般的な魚醤は塩漬けにして、魚のタンパク質をアミノ酸に分解するのですが、できる限り新鮮な状態で塩漬けにして、醤油づくりの麹を加えたそうです。魚醤の分解による発酵と醤油づくりの微生物による発酵をかけあわせた製法で、鍋物や炒め物に使うと魚醤のうま味を添えてくれるのはもちろん、白身の刺身などにつけ醤油として使っていただくこともできるおもしろい魚醤です。

子供のためにつくったぽん酢に秘められたものづくりの姿勢 森田醤油
島根県奥出雲町

島根県奥出雲町にある森田醤油、冬に行くのは少し大変です。「車のチェーンは必須ですよ。ただ、雪がすごくてたどり着けないかも…」と、半分冗談で半分本気のような電話でのやりとりをしていました。普段は日が沈むと0度は当たり前、マイナス二桁の時もあるそうです。そんな地域にある小さな醤油蔵に、都内の百貨店や自然食品店などからの支持が集まっています。私が好きなエピソードがぽん酢の開発物語です。当時は、ぽん酢を作るために出汁エキスを使っていたそうですが、「息子がそのダシを飲もうとした時、ちょっと待てと止めてしまったんです」と森田郁史さん。その瞬間にはっとしたそうで、それまでのレシピを全て捨てて原料を見直すことにしたそうです。結果として、素材を取り寄せて自社で煮だすようになりました。森田醤油に立ち寄ると幾つもの試作品を並べてくれます。「お遊びなんですけどね」とニコニコしながら新たな原材料や新しい仕込み方法などを紹介してくれるのですが、自分が一番楽しんでいる雰囲気です。きっとその感じこそが周囲の人たちを引き付けているのだと感じています。そして、息子の浩平さんもまた、じわじわと同じ雰囲気になってきているので、また伺いたいと思ってしまうのです。

会いに行きたくなる個性的なつくり手 カネイワ醤油本店
和歌山県有田川町

醤油の歴史を辿っていくと、和歌山の「金山時味噌」に出会うはずです。13世紀頃に中国から伝わった味噌の製法が紀州・湯浅周辺に広まったとされるもので、この金山寺味噌を作る時の味噌の溜(たまり)から、醤油作りが始まったという説です。そんな和歌山県にあるカネイワ醤油本店は伝統的な木桶仕込み醤油を続けています。「ややっ! よう来てくれましたな!」と出迎えてくれたのは岩本行弘さん。いつ訪問しても、ケラケラと大きな声で笑い、こちらが相槌を打つのを忘れてしまうほどのマシンガントークが繰り広げられる個性的なつくり手です。でも、ひとたび蔵と醤油造りの話題になると、「1000人に1人でもいい。本物を求めてくれるお客さまに出会いたい」と、キリッと眼光鋭い職人の顔に。そんな岩本さんに直接会うために都内からシェフが訪ねてくることもあるそうです。そんな時はよいところも悪いところも全部さらけ出して話をしているのだと思います。醤油ならなんでもよいという認識から、誰がどのように作った醤油かが大切にされるようになってきたように感じます。当然、醤油はより個性的になっていくはずで、これからがますます楽しみに感じています。

今回ご紹介する商品はコレ!

個性を楽しめる醤油3本セット
¥1,728(税込)

それぞれ異なる蔵元が手掛ける醤油で、醤油の地域による個性を感じていただける醤油をセレクトしました。

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えそ魚醤

えそ魚醤(ヤマサちくわ

おすすめの使い方:おでん、白身のお刺身、ちくわとわかめの和え物

ちくわの原料となる「えそ」。醤油の老舗イチビキとの共同開発で生み出されたつけてかけて楽しめる新しいタイプの魚醤。つけてもかけても楽しめます。
三年熟成しょうゆ

三年熟成しょうゆ(森田醤油

おすすめの使い方:焼うどん、そばつゆ、木綿豆腐

奥出雲地方で寒仕込みの三年熟成。森田さんのテーマは、子供から大人まで食べ続けて安全な醤油。原材料にもこだわりがあります。炒め物の仕上に使ってコクとうま味をプラス。
天然醸造醤油

古式しょうゆ(カネイワ醤油本店

おすすめの使い方:天つゆ、おでん、鮭の竜田揚げ

国産の大豆と小麦を使って2年間熟成。添加や調整をすることなく、搾って火入れをしてそのままビン詰めしています。鶏そぼろなど熱が加わってもおいしいです。