第10回 うなぎ丼と親子丼にぴったりなお米
〜 第10回 〜
うなぎ丼と親子丼にぴったりなお米
株式会社山田屋本店 秋沢毬衣
五つ星お米マイスター、米・食味鑑定士。東京都調布市にある株式会社山田屋本店の6代目。全国の田んぼを訪問し、日本の精密かつ受け継がれゆく米作りや生産者の想いを国内外へ発信。お米の専門店「米屋彦太郎」を運営し、お米館調布本店・三越銀座店に出店している。
こんにちは。米屋の娘6代目の秋沢毬衣です。自分好みのお米を見つけるお手伝いをいたします。今回は、丼飯(どんぶりめし)にぴったりのご飯をご紹介します。 丼飯のなかでも、うなぎ丼のように具材を引き立てるお米と、具材と出汁の汁気を合わせて口内調味を楽しむ親子丼にあうお米をご紹介します。
前回まではこちら
目次
“うなぎ丼”と相性が良いお米【粒肌がしっかりとしたお米】
ウナギの焼き方は地域によって異なることはご存知のことと思います。関東風は、背開きしたウナギに串を打ち白焼きにし、蒸して脂を落としてから焼き上げるので、ふわっとした食感が特長です。関西風は、頭を落とさずに腹開きにしたウナギに串を打ち、蒸さずにそのまま焼き上げるので、表面がパリっとした食感と脂のうまみを楽しみます。
当店もうなぎ屋さんにお米を卸しており、それぞれの大将によって求められるお米に多少の違いはありますが、共通しているのは「タレをまぶしてもベタっとしない、ハリのあるお米」という要望。この要望に当てはまるお米は、粒肌がしっかりとしたお米。「新之助」「にこまる」「星空舞」などがおすすめです。
“親子丼”と相性が良いお米【程よい粒感と粘りのあるお米】
親子丼は、より汁気が多く、卵でとじた鶏肉と絡めながら、ご飯をいただく料理です。ふわとろの卵と弾力のある鶏肉、出汁の汁気をまとったご飯を同時にかきこみ、口内調味で完成される丼には、粒感も残し、それでいて多汁性を受け止める程よい粘りのあるお米を選ぶと良いです。「つや姫」「コシヒカリ」「おぼろづき」など、程よい粒感と粘りのあるお米がおすすめです。
お米マスターが選ぶ、うなぎ丼と親子丼にぴったりなお米
〜 その1 〜
山梨県韮崎市産 農林48号/小澤 元(山梨県韮崎市)
農林48号は、食味が良いのが特長です。病気に弱く栽培が難しい品種のため生産量が少なく「幻のお米」とも言われています。
農林48号は、戦後まもない1949年(昭和24年)に愛知県の農業試験場で育成されました。開発当時は多収で食味がよいことから富山・栃木・山梨などで奨励品種に指定されていましたが、出穂期(穂が出てくる時期)が遅くイモチ病に弱い事などから、次第に作り手が少なくなり姿を消していったお米です。近年では、その食味の良さが再注目され、農家さんのたゆまぬ努力によって栽培が維持されてきました。現在、農林48号の栽培が確認されているのは、山梨県北部の地域のみで「幻のお米」とも言われています。
農機具を自作でアレンジしながら幻の米を育てる
山梨県北部に位置する韮崎市は、南アルプスの豊かな自然と無川の清廉で豊富な水によって育まれています。小澤さんは、電鉄会社に務めていましたが、37歳で実家に戻ることに。翌年、父親が病に倒れ一人で田んぼを引き継ぐことになりました。それから28年たった今も変わらずに真摯に田んぼに向き合います。効率よく作業をできるように、種まきや苗箱の自動供給機などの農機具を自作でアレンジしながら日々努力しています。
お米にストレスをかけずに乾燥させる
収穫したお米は、急激に乾燥させてしまうと胴割れ米や砕米が増加し品質や食味が低下してしまいます。そのため、ゆっくりと乾燥させる必要があるのですが、小澤さんは、自然の天日のようにお米にストレスをかけない方法として30~33℃程度の温風をあて、所有する4台の大型の遠赤外線の米乾燥機で時間をかけてゆっくりと乾燥させています。小澤さんは、地域の農家の米乾燥も引き受けるほか、米の栽培などについて相談されることも多く、自らの田んぼ以外にも地域全体の田んぼに貢献しています。
農林48号は栽培が難しく手間がかかります。一休さんのように知恵をつかって農作業の効率を高めています。
小澤元
〜 その2 〜
新潟県上越市産つきあかり/農事組合法人大西(新潟県上越市)
「つきあかり」は、粒の厚みと弾力が口どけ良く、丼飯のような具材と一緒に供される料理にぴったりです。
新潟県南西部に位置する上越市は、全国でも有数の米の一大産地です。水稲の作付面積は、11,000ヘクタールで、東京都の山手線の内側の面積の1.9倍の広さを誇ります。「つきあかり」は、上越市内にある国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の北陸研究拠点で開発され、2016年(平成28年)に品種登録された新品種です。ご飯の外観が艶やかで、輝くように見えることから命名されました。粒の厚みと弾力が口どけ良く、冷めてからもおいしさが持続するので丼飯のような具材と一緒に供される料理にぴったりです。
米作りを法人化して共同運営
上越市三和区大では、2004年~2006年にかけて大区画ほ場整備が行われました。大区画になり作業効率が向上した一方で、個人で水管理や草刈り、機械を抱えきれない農家も増えてきました。そこで生産意欲の高い仲間が集まり法人化することで、役回りを分担し共同作業をしながら地域の集落の農地を守っています。「農事組合法人 大西」もそうした組織の一つです。
土づくり
米作りで大切なのは、土づくり。収穫した稲わらは、全量漉き込みにし循環型栽培を行っています。毎年、秋の収穫が終わると田んぼの土壌調査をし、必要な成分を補っています。近年は夏場の高温による障害(お米が白く濁る)が問題になっていますが、地道な土づくりを続けてきたことが、異常気象による障害の軽減に繋がっています。
米どころ上越市で開発された「つきあかり」を、多くの皆さんに召し上がっていただきたいです。今後の課題は、後継者を育てていくことです。
農事組合法人大西 代表理事 武田敏一