第12回 サンマと秋鮭にぴったりなお米
〜 第12回 〜
サンマと秋鮭にぴったりなお米
株式会社山田屋本店 秋沢毬衣
五つ星お米マイスター、米・食味鑑定士。東京都調布市にある株式会社山田屋本店の6代目。全国の田んぼを訪問し、日本の精密かつ受け継がれゆく米作りや生産者の想いを国内外へ発信。お米の専門店「米屋彦太郎」を運営し、お米館調布本店・三越銀座店に出店している。
こんにちは。米屋の娘6代目の秋沢毬衣です。自分好みのお米を見つけるお手伝いをいたします。食欲の秋!美味しい食べ物がたくさん旬を迎える秋。この時期、海の幸の代表格といえば、サンマと秋鮭。旬を迎え、脂のたっぷり乗った魚と合わせてぴったりのお米をご紹介します。
前回まではこちら
“サンマ(秋刀魚)”と相性が良いお米
サンマは、漢字で「秋刀魚」と書くように秋を代表する魚です。サンマは旬の秋には20%以上の脂肪を蓄えていますが、それ以外の季節では5%程度。たっぷりと脂の乗ったサンマを塩焼きにし、みずみずしく芳しい香りの新米をあわせて口に含んだら、それはもうご馳走ですね!塩焼きのサンマにあわせるお米は、主張の強すぎない「きぬむすめ」や「銀河のしずく」「たかたのゆめ」などがおすすめ。ふわっと口どけがよく、ほぐれ感があり、しっかりと噛みしめるごとに甘みを感じるお米は、サンマの味わいを引き立てます。
“秋鮭”と相性が良いお米
身つきのよい秋鮭は、塩をまぶした焼き鮭はもちろんのこと、野菜などとホイルに包みしバターと醤油を絡めて食べるホイル焼きもおいしいですね。そんなジューシーな味わいを楽しむ秋鮭には、「ミルキークイーン」や「だて正夢」など、もちもちとしたお米がおすすめです。脂のたっぷり乗った秋鮭に負けないもっちりとした食感は、魚の脂身を口内でコーティングし、互いのうま味を引き立てます。
米屋の娘のおすすめ「新米と古米」の炊き方
よく夏場は、米がおいしくない・パサつくという声をいただきます。収穫してから10カ月以上が経過すると、お米の水分含有量が少なくなり、いわゆる「古米」と言われる状態になります。そのため、炊くときにはいつもより5%~10%ほど水を多めにすると良いですよ。
「収穫したばかりの新米の水加減は減らした方が良いですか?」というお問い合わせをいただきますが、結論から言うと、お米の品質検査には水分値15%以下という基準が定められているので、減らさなくても大丈夫です。昔は天日乾燥が主流だったので、気候や場所によってお米の水分値もばらつきがありましたが、現在は機械での乾燥が一般的になり、多くのお米が15%程度の水分値で出荷されています。乾燥技術・保管技術が向上され、新米と古米の水分値の差が小さくなっているので、加水量は減らす必要ありません。
お米マスターが選ぶ、サンマと秋鮭にぴったりなお米
〜 その1 〜
特別栽培米 鳥取県産 奥大山江府米 きぬむすめ/阿部 朝親(鳥取県江府町)
塩焼きのサンマにあわせて美味しいお米は、ふわっと口どけがよく、ほぐれ感があり、しっかりと噛みしめるごとに甘みを感じるお米です。
1992年に倒れにくく食味が良い品種「キヌヒカリ」と「愛知92号」を元に人工交配を行った組合せから選抜・育成したのが「きぬむすめ」です。きぬむすめは、炊きあがりの白さとツヤ、粘り強く柔らかい食感、冷めてもおいしいという特長があります。標高1,200mの奥大山の麓にある鳥取県江府町では、奥大山のブナ林を源流とする清涼な水、大山特有の「黒ぼく」と呼ばれる大山特有の保水力と地力の高い火山灰土により、高原地方特有の昼夜の寒暖差が、おいしいお米を育んでいます。江府町で生産される「きぬむすめ」は、粒肌が柔らかく、同地で生産されるコシヒカリと比較すると、淡白であっさりした飽きのこない味が特徴的です。
次の世代に米作りの文化を繋げていく取り組み
「奥大山プレミアム特別栽培米研究会」という生産者チームを結成し、「奥大山江府米」というおいしい米作りの取り組みを始めました。生産者はもちろん、町に住むす人々が誇りを持ち、農業分野だけでなく、商工観光分野とも力を併せて、次の世代に米作りの文化を繋げていきたいという想いで立ち上げました。お米を作り続けていくことが、この美しい景観を守り、ここに暮らす人々に元気と希望をもたらしてくれると信じて、これからも取り組みを続けていきます。
独自の厳しい出荷基準
奥大山江府米は、出荷するまでにとても厳しい条件を設けています。農薬、化学肥料を可能な限り減らし、出荷される玄米においては、網目1.90mm以上の大粒の米のみを選別しています。さらに、食味値81点以上、整粒歩合80%以上という出荷基準をクリアしたお米のみをお客様へお届けしています。お米日本一コンテスト in しずおかでは、「最高金賞」と「品種賞」のW受賞の獲得歴もある生産者チームです。
私たちが真心を込めて育てた、奥大山江府米きぬむすめ。どうぞお楽しみください。
阿部 朝親
〜 その2 〜
富山県小矢部市産 ミルキークイーン/前田 真一郎(富山県小矢部市)
脂のたっぷり乗った秋鮭に負けない、もっちりとした粒感は、魚の脂身を口内でコーティングし、互いのうま味を引き立てます。
ミルキークイーンは、従来の都道府県主体の開発事業と異なり、農林水産省主導で1989年から6年かけて行われた「スーパーライス計画」で開発された品種です。低アミロースのお米を目指して開発された「ミルキークイーン」は、コシヒカリの突然変異として誕生し、1995年に品種登録されました。普通のお米よりも玄米の見た目が乳白色に見え、食味評価が高いことから「良質米の女王」という意味をあわせて「ミルキークイーン」と名付けられました。デンプンの一種である「アミロース」の含量が一般的な白米(うるち米)よりも低く、粘りが強く、モチモチとした食感で冷めても硬くなりにくいことが特長です。
モチモチした食感の理由
お米の粘りの正体は、お米に70%含まれるデンプンで決まります。このデンプンにはアミロースとアミロペクチンの2種類があり、デンプンのアミロースの割合が少ないと粘りが強いご飯になり、逆にアミロースの割合が多いと粘りが少ないご飯になります。日本の一般的な米のデンプンは、アミロースが17~23%含まれています。ミルキークイーンのアミロース含量は、一般的な米よりも低い9%~12%程度のため、「低アミロース米」と言われモチモチした食感になります。
ミルキークイーンの食味にこだわり中山間部で生育
北アルプス・飛騨山脈の北部、中部山岳国立公園に位置する立山連峰は3,000m級の大きな山々です。冬に積もった雪は春に雪解け水となり、7大河川を主とするたくさんの急流・河川を通って富山平野に流れ込みます。収穫量を増やしたいからといって、肥料を過剰に与えてしまうとタンパク値が上がり食味が悪くなります。平地の方が育てやすいですが、ミルキークイーンを食べたいと言う人に満足してもらう米作りをしなくてはならないという想いから、気温・水・大地、環境の適した中山間部で作っています。
ミルキークイーンの味を好むお客様に向けて、その上をゆく味を目指して作っています。
前田 真一郎