第13回 卵かけご飯にぴったりなお米
〜 第13回 〜
卵かけご飯にぴったりなお米
株式会社山田屋本店 秋沢毬衣
五つ星お米マイスター、米・食味鑑定士。東京都調布市にある株式会社山田屋本店の6代目。全国の田んぼを訪問し、日本の精密かつ受け継がれゆく米作りや生産者の想いを国内外へ発信。お米の専門店「米屋彦太郎」を運営し、お米館調布本店・三越銀座店に出店している。
こんにちは。米屋の娘6代目の秋沢毬衣です。自分好みのお米を見つけるお手伝いをいたします。おかずが少ないときや、時間がない朝でも手軽に食べられる「卵かけご飯」。今回は、卵かけご飯にぴったりなお米をご紹介します。
前回まではこちら
卵かけご飯の起源
日本の朝ごはんの定番メニューと言えば「卵かけご飯」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。炊き立てのアツアツご飯に新鮮なタマゴを割り入れて醤油を数滴たらし、一口頬張れば、お米の風味とタマゴのうまみ、醤油の香りが広がり、絶妙なコンビネーションに箸が止まらなくなります。卵かけご飯は、地域や世代を問わず国民食とも言われますが、実は、タマゴの品質管理が良い日本ならではの食習慣です。今のような生タマゴを使用する卵かけご飯が食べられるようになったのは、明治時代に入ってからと言われています。昭和初期発行の文献に「岡山県美咲町出身の実業家・岸田吟香氏が、明治初期に鶏卵和(卵かけご飯)を食べた」ということが記録されており、当時の味付けは、現代とは異なり塩や唐辛子が主流だったそうです。岸田氏の出身地である美咲町ですが、現在は年間7万人ほどが訪れる“卵かけご飯の聖地”としても有名で、町内の飲食店でいろんな卵かけご飯を食べ比べられるそうです。卵かけご飯好きなら一度は訪れてみたい聖地ですね。
卵かけご飯と相性の良い米の選び方
一言で「卵かけご飯」と言っても、食べ方は人それぞれ。生タマゴをそのまま炊き立てご飯にのせる、生タマゴを溶いてからご飯にかける、タマゴの白身と黄身に分けて白身だけをご飯を一緒に混ぜて、黄身は後のせなど、自分好みの「卵かけご飯」があると思います。タマゴの溶き方だけではなく、あわせるお米選びも一工夫すると、よりおいしい卵かけご飯に仕上がります。
米屋の娘のおすすめ「卵かけごはんに合うお米」
新潟県産つきあかり/青森県産青天の霹靂:
米粒が大きいとタマゴが米によくからみ、おいしさがアップします。
高知県産にこまる/山形県産つや姫:
しっかりとした粒感で弾力のある米とトロリとしたタマゴの食感が合います。
宮城県産だて正夢/富山県産ミルキークイーン:
うまみ・香りが強い米を選ぶと、タマゴのうまみとの相乗効果でよりおいしく感じられます。
卵かけご飯には「醤油」も欠かせないですよね。醤油を数滴加えるだけで、格段においしさがアップします。醤油の専門家である職人醤油の高橋万太郎さんが「卵かけご飯に合う醤油」を解説してくださっているので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
新米をさらにおいしく食べるコツ!卵かけご飯と醤油漬け
お米マスターが選ぶ、卵かけご飯にぴったりなお米
〜 その1 〜
特別栽培米 福井県産 いちほまれ/農事組合法人エコファーム光明寺(福井県永平寺町)
ごはんの上に、タマゴをのせて絡めあわせても、ご飯ひと粒ひと粒がはっきりと粒感を主張してくるお米です。
コシヒカリ誕生の地である福井県が、2011年にコシヒカリを超える新たなブランド米開発プロジェクトを立ち上げ、およそ6年の歳月をかけて開発した品種が「いちほまれ」です。ポストコシヒカリとして候補にあがった品種20万種の中から「越南291号」が選ばれ、「日本一おいしい、誉れ高きお米」になってほしいという願いを込めて「いちほまれ」と名付けられました。絹のような白さとツヤ、口に広がる優しい甘さ、粘りと粒感のバランスが良いのが特長です。「いちほまれ」独特のしっかりとした弾力と粒感が、生タマゴのとろみと絶妙なバランスで調和するので、卵かけご飯をより一層おいしくします。
豊かな自然と良水に恵まれた米どころ
福井平野の中心部にある永平寺町は、700年以上も前に道元禅師により創設された曹洞宗大本山永平寺がある町としても有名です。町内を流れる福井県内最大の河川・九頭竜川は、霊峰白山を源とした清流としても知られ、豊かな自然と良水に恵まれたこの地では、古くから米どころとして栄えてきました。
人と環境に優しい「れんげ農法」
れんげ農法は、レンゲソウが稲の生育に必要な窒素を根に取り込むという特長を生かした農法です。収穫後の田んぼにレンゲソウの種をまき、春に花を咲かせたレンゲソウを土にすきこんで肥料にすることで化学肥料や農薬を使用せずとも、おいしいお米を育みます。農業の近代化に伴い「れんげ農法」は衰退しましたが、食の安全や人と環境に優しい農法の気運の高まりを受け2007年に「れんげ農法プロジェクト」が始動しました。
今年はれんげがキレイに咲き、良質な肥料分が稲に伝わりました。例年以上に、おいしくすくすく育っています!
農事組合法人エコファーム光明寺
代表理事 河野 克之
〜 その2 〜
特別栽培米 愛知県新城市作手産 山の幻ミネアサヒ/山の幻ミネアサヒ生産部会(愛知県新城市)
溶いたタマゴの下から、お米の良い香りが感じられます。タマゴ・醤油・ご飯の香りの三位一体をお楽しみください。
「ミネアサヒ」は、愛知県農業総合試験場で標高の高い中山間地域の気候に適した米として「関東79号」と「喜峰(きほう)」を交配し、1980年に誕生しました。三河地方の中山間地でのみ栽培されており、生産量も限られていることから「幻のお米」とも呼ばれています。米粒はやや小粒ですが、まるまるとした光沢と、のど越しが良いのが特長です。そして何よりもお米の香りが濃いので、タマゴをかけるとご飯の香りが際立ちます。醤油は甘めのものよりも、辛めでさらりとした粘度のものを合わせるとお米の香りとうまみの調和が楽しめます。
愛知県の中山間地のみで栽培される希少米
ミネアサヒは、中山間地域の気候に適した品種であることから、三河地域の中山間地でのみ栽培されています。愛知県内の水稲栽培面積で比較すると6%弱ほど。生産量が少ないため三河地域以外ではほとんど流通していません。「山の幻ミネアサヒ」が育つ愛知県新城市作手地区は、標高500m以上の中山間地に位置しており、盆地ならではの昼夜の寒暖差と中山間地の多雨がおいしいお米作りに適しています。
豊田市の焼き土を使用した苗床
お米作りにおいて苗づくりは「命」といっても過言ではありません。まずは、苗床となる土づくり。根張りがよい土、効率よく水はけが良い土、養分をしっかりと保有してくれる土。これらは、どのようなお米を作るか、半年かけて育む初めの一手でもあるので慎重になります。山の幻ミネアサヒでは、ミネラルを多く含み保水力のある粘土質である豊田市の焼き土を使用し苗床を作っています。
ミネアサヒは、見た目は小粒ですが冷めてもおいしく、満足度が高いお米です。今や幻となったミネアサヒを守り継いでいきたいです。
作手受託営農部会
部会長 夏目 芳徳