第15回 お鍋のしめにぴったりなお米
〜 第15回 〜
お鍋のしめにぴったりなお米
株式会社山田屋本店 秋沢毬衣
五つ星お米マイスター、米・食味鑑定士。東京都調布市にある株式会社山田屋本店の6代目。全国の田んぼを訪問し、日本の精密かつ受け継がれゆく米作りや生産者の想いを国内外へ発信。お米の専門店「米屋彦太郎」を運営し、お米館調布本店・三越銀座店に出店している。
こんにちは。米屋の娘6代目の秋沢毬衣です。自分好みのお米を見つけるお手伝いをいたします。寒い季節の定番メニューといえば「鍋料理」。冷蔵庫にある野菜やお肉お魚など、お家にあるもので手軽に作ることができ、栄養バランスもよく、心も体もポカポカと温まる一品です。また、しめも楽しみのひとつですよね。今回は、「お鍋のしめに合うお米」をご紹介いたします。
前回まではこちら
目次
お鍋のしめに合うお米とは?
お鍋といっても、さまざまな種類と味わいがあります。もつ鍋、寄せ鍋、ちゃんこ鍋、水炊き、芋煮、すき焼きなど、スーパーでは数多くの鍋の素が並び、毎日食べても飽きずに楽しめます。鍋料理といえば、最後のしめを選ぶのも楽しみのひとつ。うどんやラーメン、ご飯など、どれにしよう?と悩みますよね。いろいろな具材のだしがたっぷりと出ていて、シンプルながらも奥深い味わい。入れる具材やベースのスープの違いによって、狙っては作れないおいしさがそこにあります。
米屋の娘のおすすめ「しめに合うお米の選び方」
水炊きには、さっぱり「青天の霹靂」
キレのある粒感とあっさりとした粘りが特長の「青天の霹靂」が、鶏出汁のうま味をまとい、のど越しの良い雑炊に仕上がります。
キムチ鍋には、ふっくら柔らか「ひとめぼれ」
ふっくらと柔らかい食感の「ひとめぼれ」に、キムチのパンチある味わいを染み込ませると、とろりとした食べごたえのある雑炊に仕上がります。さらにチーズをトッピングしてもGOOD。
石狩鍋には、モチモチ食感「ゆめぴりか」
モチモチ食感で甘みの強い「ゆめぴりか」には、味噌味の石狩鍋がおすすめ。さらにバターを加えると風味豊かな雑炊に仕上がります。
洋風鍋の定番トマト鍋には、リゾット米「カルナローリ」
大粒でスープの味をしっかり受け止める「カルナローリ」は、洋風のトマト鍋に最適。チーズと黒コショウをあしらえば、お鍋のしめでつくるリゾットの出来上がり。
「雑炊」と「おじや」の違いとは?
おいしい鍋を満喫した後は、具材のうまみがつまったスープにしめを入れて、最後の一滴まで楽しみたいですよね。麺類を入れるか、ご飯を入れるかも悩みどころですが、一言で「ご飯を入れる」といっても、実は入れ方で食感が異なります。炊いたご飯をそのまま入れるととろりとした食感の「おじや」になり、炊いたご飯を水で洗ってから入れるとさらさらの「雑炊」になるんですよ。
おいしい雑炊の作り方
お好みで小口に切った青ネギや胡麻をトッピングしたり、ラー油や柚子胡椒などを加えると味の変化を楽しめますよ。
1. 鍋の具は出来るだけ食べきり、スープだけの状態にする。※スープは多めに残しておくことがポイント
2. ザルにご飯をいれたら、かたまりをほぐしながら水を流し、ぬめりをとる。
3. ご飯がさらさらになったらザルを上げ、水を切る。
4. スープが沸騰したらご飯を入れ煮込んだら完成。
洋風鍋に合うしめの米は?
洋風鍋のしめには、リゾット米がおすすめです。イタリアが起源のカルナローリ種は、日本米と異なり、大粒で水分を含んでも形が崩れず、「アルデンテ」に仕上げることができるので、ご家庭でも簡単に本格リゾット風雑炊を楽しめます。リゾットは、生米を炒めた後にブイヨンとなじませて作りますが、今回は、常連のお客様に教えていただいた手軽においしく仕上がるレシピをご紹介します。
リゾット風雑炊の作り方
お好みで粉チーズやオリーブオイルをたらすとさらにおいしくなります。
1. 沸騰したお湯にカルナローリを投入し10分ほどゆでる。
2. ザルに上げてお湯を切る。
3. スープを沸騰させたらカルナローリを投入し、さらに10分ほど煮込んだら完成。
お米マスターが選ぶ、お鍋のしめにぴったりなお米
〜 その1 〜
宮城県産 ひとめぼれ|うまい米研究会(宮城県角田市)
「ひとめぼれ」は、たっぷりと野菜やお肉のエキスがつまったお鍋の汁を包み込み、とろりとした食感に仕上がります。
「ひとめぼれ」は、「コシヒカリ」と「初星」を両親として1991年に宮城県の古川農業試験場で誕生しました。宮城県の気候風土に合わせて育成され、冷害に強い品種です。比較的に栽培しやすい安定した収穫量のある品種ということから、青森県から沖縄県まで全国各地で栽培されるようになり、現在は「コシヒカリ」に次いで全国で2番目に多く収穫されているお米になりました。炊き上がりはふっくらと柔らかく、程よい粘りが特長で、食感と甘みとうま味のバランスが良いので、ずっと食べ続けていたくなるお米です。また、「ひとめぼれ」は、しっとりと柔らかい性質から、お鍋のしめのご飯に適しています。野菜やお肉などしっかりとだしのとれた鍋に、炊いた「ひとめぼれ」を投入したら一煮立ちさせます。米粒の程よい柔らかさが鍋のうま味をたっぷりと含み、とろっとした仕上がりになります。
いのちを守る農業のまち角田市
宮城県の南部、阿武隈川の流域に位置する角田市では、30年以上にわたり「いのちを守る農業のまち」という基本理念のもと、安全な農産物の生産体制に取り組んできました。米づくりにおいては、農薬航空散布を全面廃止し、有機低農薬の生産を行っています。農業公社を主体とし、農学校・農大の生徒、外国人の農業者を受け入れ、研修生として若い農業者を育てています。農村は農民の生活の場。栽培における安心安全な生産と、次世代の農業者を育成する活動が、私たちの食糧の未来を守るいのちをつなぐ田んぼとなっています。
夏場の異常な暑さを耐え抜く工夫
寒さに強い品種として開発された「ひとめぼれ」は、栽培のしやすさから、宮城県を代表する品種となりました。しかし、近年の温暖化の影響で、夏場の「高温障害」で米粒の色味が白く白濁してしまう「しらた」や、食味を落としてしまうことが懸念されるようになり、高温に耐性のある「つや姫」に作付けを変更する生産者も増えてきました。しかし、うまい米研究会は、近隣の生産者同士で定期的に勉強会を行い、土づくりや栽培時期の好適時期を観測するなどの研究を日々行っています。「高温障害」の対策としては、出穂期の夏場に高温時期が重ならないように、田植えの時期を遅らせるなどの工夫をしています。
地域でずっと継続できる農業を目指しています。今年の「ひとめぼれ」は、食味値も90点を超え良い出来で自信をもってお届けします。
うまい米研究会
面川 義明
〜 その2 〜
石川県産 カルナローリ|たけもと農場(石川県能美市)
鍋のしめが、本格的なリゾットに早変わり!国内産のイタリア米は、リゾット専用につくられたお米です。
カルナローリ種は、イタリアが起源のお米です。イタリアでは、お米を「炊く」のではなく「煮る・ゆでる」といった方法で調理します。日本のお米と比較すると、アミロースの割合が高いために粘りが少なく、白く濁った色味、また米粒の大きさは2倍ほどあります。水分を含んでも形が崩れず、「アルデンテ」に仕上げることができるのでご家庭でも本格的なリゾットを作ることができます。本場イタリアでは、ゆでたお米をあえたサラダ、甘く煮たお米を入れたケーキなどにも使用します。国産の「カルナローリ」は、たけもと農場が日本で初めて2011年より栽培を始めました。「カルナローリ」は、普通のお米と同じように炊飯するとパサついてしまうので、リゾットやお鍋のしめ専用でお召し上がりください。沸騰したお湯で10分程度ゆでて、市販のパスタソースなどに絡めるだけで、おいしいリゾットができますよ。
日本初「カルナローリ種」栽培への挑戦
竹本さんが就農した18年前23歳の頃は、「米の消費は減り米の値段は下がる」と耳にすることが多く、米農家として生き残りについて考えていました。そんな時、イタリアンのシェフから「リゾットは、イタリアから輸入した米じゃないと粒感が再現できないので作ってほしい」という依頼が入ったことをきっかけに、カルナローリ種の栽培に挑戦することになりました。さっそく、イタリアから玄米を仕入れ、栽培を開始したものの、1年目は3枚の苗箱から、たった20本しか芽が出ませんでした。試行錯誤を重ね、3年目にやっと販売ができる量を収穫することができるようになりました。
多くのシェフから支持される国産のカルナローリ米
日本米に比べて粒が大きく、柔らかい質感の米である「カルナローリ」は、精米時にも工夫が必要です。通常の方法で圧力をかけて精米すると、胴割れを起こし粉々になってしまうため、竹本さんは、圧力を調整しながら精米を2回行うカルナローリ専用の精米方法を行っています。竹本さんのカルナローリは、リゾットの仕上がりの良さはもちろんですが、リゾットに適したお米を日本の顔の見える生産者から購入できることが何よりも安心感がある、と多くのシェフから支持されています。
炊いておいしいニーズだけでなく、バラエティーがある米の世界を楽しむ時代になりました。他と違う特徴ある米作りをこれからも挑戦していきます。
たけもと農場
竹本 彰吾