第6回 知れば知るほどやみつき!大豆の旨味が凝縮した濃厚風味。カクキューの「八丁味噌」

〜 第6回 〜
知れば知るほどやみつき!
大豆の旨味が凝縮した濃厚風味。カクキューの「八丁味噌」

藤本智子

味噌伝道師MISODO 藤本智子
味噌、和食、健康、地域活性等をテーマに、行政や企業向けの講演会、学校や幼稚園等での食育活動を行う。株式会社ミソド代表取締役、一般社団法人みそまる普及委員会理事、みそソムリエ、味噌専門メディア「味噌プレス」編集長。

味噌伝道師MISODOによる各地域の味噌と味噌を使ったおすすめ料理の連載です。今回は、東海豆味噌についてお話させていただきます。
前回まではこちら

今回ご紹介する味噌は「東海豆味噌」

東海豆味噌とは

豆味噌には、「八丁味噌」「名古屋味噌」「三州味噌」など、さまざまな銘柄があり、黒に近い色味で光沢があり、大豆の旨味が強く、他の味噌にはない個性的な風味が特徴です。原料は大豆と食塩のみで、蒸した大豆を玉にして麹にする「味噌玉製麹」という独特の製法でつくられます。東海地方の夏は、高温多湿で味噌の酸敗が起きやすいため、米や麦を使わずに、大豆に麹菌を生育させる製法が用いられてきました。豆味噌は地方色が強く、愛知、岐阜、三重の東海3県で大部分が生産されていることから「東海豆味噌」と呼ばれてきました。

徳川家康も愛した濃厚な風味

天下統一を果たした徳川家康は、豆味噌の味噌汁や焼き味噌を好んで常食していたとされています。大豆を多く使う豆味噌は、貴重なタンパク源と塩分補給になり、スタミナがつきます。また、豆味噌は抗酸化力の強いイソフラボンや、褐色色素「メラノイジン」を多く含んでいるため、家康が、平均寿命37、38歳の時代に75歳という天寿を全うできたのも、味噌が一役買っているのかもしれません。

“名古屋めし”を支える万能調味料

「味噌煮込みうどん」「味噌カツ」「味噌おでん」「どて煮」など、代表的な名古屋めしの味の決め手となるのが豆味噌です。一般的な味噌は、煮立たせると香りが飛んでしまいますが、豆味噌は、煮込んでも香りの変化が少ないため煮込み料理に最適です。また、食材の香りを吸着し、油の乳化性にも優れているため、特に肉や魚介類との相性が抜群です。豆味噌の汎用性の高さと、一度食べたらやみつきの濃厚な風味が、東海エリア独特の食文化を形成してきたといえるでしょう。

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豆味噌は、煮込み料理や脂っこい料理との相性が抜群です。使い慣れない方でも、豆味噌を手軽に楽しめる「味噌おでん」と「味噌カツ」をご紹介します。

味噌おでん

味噌おでん

東海エリアでは、さまざまな料理に味噌ダレをかける文化があり、通常のだしベースのおでんにも味噌ダレをつけて食します。しかし、なんといっても絶大なインパクトを誇るのが、甘く仕立てた豆味噌のスープで煮込んだ「味噌おでん」です。味わいは濃厚ですが、不思議としつこくありません。普段のおかずや、お酒のおつまみにもピッタリです。

味噌カツ

味噌カツ

豆味噌を使ったソースは、味噌、砂糖、みりん、酒などで簡単に作ることができる上、常備しておくと、揚げ物や田楽など、さまざまな料理に使えて重宝します。名古屋めしの定番「味噌カツ」はもちろんのこと、コロッケやからあげなどにも、おすすめです。マヨネーズ感覚であれこれかけてみると、新しい発見があるはずです。

今回ご紹介する商品はコレ!

知れば知るほどやみつき! 大豆の旨味が凝縮した濃厚風味。カクキューの「八丁味噌」

江戸時代からの伝統製法を受け継ぐ、老舗の八丁味噌ブランドです。味噌の企業としては、最も古い歴史を持ち、かつて宮内省御用達でもあった格式高い味噌です。

始まりは江戸時代初期

徳川家康生誕の岡崎城より西へ八丁(約870m)離れた八丁村(現・八帖町)でつくられたことから「八丁味噌」と呼ばれるようになりました。八丁村は、旧東海道と矢作川の交わる水陸交通の要所で、大豆や塩を入手しやすく、矢作川の良質な伏流水にも恵まれた味噌づくりに適した立地でした。武士であったカクキューの始祖・新六郎勝久は、武士をやめて早川久右衛門と改名し、この地でつくられる豆味噌のつくり方を学びました。始祖より数代の後、江戸時代初期の1645年に商売として八丁味噌の販売を始めました。矢作川に隣接する特有の気候風土に合わせて製法の改良を行い、水分を減らして保存性を高めた結果、八丁味噌特有の味や香りが生まれました。

伝統的な味わいを大切に

八丁味噌は、良質の大豆と食塩のみを原料に、大きな木桶に仕込み、天然醸造で2年以上熟成させるという、江戸時代からの伝統製法を受け継いでいます。木桶の上には、均一に熟成が進むように、仕込量6トンに対し3トンもの石が職人によって丁寧に積み上げられます。地震があっても崩れないほどしっかり積めるようになるには、10年もの経験が必要だそうです。
こうして手間暇かけてつくられる八丁味噌は、大豆の旨味を凝縮した濃厚なコクと少々の酸味、渋味、苦味のある独特の風味が特徴です。色が濃いため辛口と思われがちですが、一般的な味噌より塩分は若干控えめで、マイルドな塩味です。

世界中で愛される八丁味噌

おいしさや汎用性の高さに加え、長期保存が可能なため、近年ヨーロッパ各国からの注文も増加しているそうです。また、八丁味噌に米味噌等を合わせた「赤出し味噌」は、程よい甘味が加わるとともに、柔らかく溶けやすいため、初めての方にも使いやすい味噌です。
「八丁味噌は他にはない味わいで、普段のお味噌汁はもちろん、煮込み料理やソースなど、さまざまな料理に使えて便利です。また、当社は伝統製法を大切にしていますが、単に食文化を受け継ぐということだけでなく、例えば、存続が危ぶまれている木桶の伝統産業を守ることにも繋がるなど、社会的にも意義があることと考えています」と、企画室長 兼 品質管理部長の野村健治さん。
歴史背景や味噌づくりへの思い、企業の目指すビジョンなどを感じながらいただくと、より一層、八丁味噌のおいしさやありがたみが増します。

参考:『みそ文化誌』(発行/全国味噌工業協同組合連合会・中央味噌研究所、編集/みそ健康づくり委員会)、『味噌大全』(発行/東京堂出版、監修/渡邊敦光)
取材協力:合資会社八丁味噌(カクキュー)