第2回[地域性]「しょっぱい」だけではない。醤油と地域性のお話

〜 第2回 〜
[地域性]「しょっぱい」だけではない。醤油と地域性のお話

職人醤油 高橋万太郎

職人醤油 代表 高橋万太郎
全国400以上の醤油蔵を訪問し、セレクトした醤油を販売する「職人醤油」代表。前橋本店のほか東京の松屋銀座店にも出店している。

前回は、醤油の基本をお話させていただきました。
前回はこちら

さて、今回は、醤油の地域性についてお話していきたいと思います。みなさんもご存知の通り、日本列島は、周囲をぐるっと海に囲まれ、南北に長いので、一言で「和食」といってもその味付けはさまざま。醤油は、基本的には「しょっぱい」ものですが、実は、地域によっては甘かったり、醤油の味の違いを知ると、地域の成り立ちや文化を知るきっかけにもなるんですよ。

醤油の生産量トップは千葉県!

日本の醤油の生産量トップは、どこかご存知ですか?正解は、断トツで千葉県!千葉県には、キッコーマン、ヤマサ醤油、ヒゲタ醤油など有名メーカーが集まっているのですが、醤油の大きな産地に欠かせないのが物流との関係です。物流といっても車のない時代、液体である醤油を運ぶのは、それはもう大変だったはずです。人が背負って山を越えるのは一苦労。そこで欠かせないのが水運です。原材料である大豆や小麦を船で運んできて、それを加工してまた船に乗せて消費地へ運んでいく。
千葉県の場合は、江戸川や利根川で江戸まで運ぶことができたので産地として発展できたのだと思います。そのため、醤油メーカーの工場は川に面していることが多く専用の船着き場の名残が残っていたりもします。

だし文化と醤油。西日本では淡口醤油と濃口醤油を使い分ける

醤油は、だしをつかう日本の食文化と切っても切れない存在です。その土地で使うだしにあわせて醤油も進化を遂げていきました。
関西のうどんつゆはだしがベースで、見た目にも淡い色ですよね。関東のうどんはつゆが真っ黒で驚いたなんて印象を持たれる方も多いかもしれません。昆布だしがベースの西日本では、煮物やお吸い物など調理には淡口醤油で、お刺身などかける時には濃口醤油を使い分けることが多そうです。一方で、かつおだしがベースの東日本では、醤油を用途によって使い分けるよりも濃口醤油1本で、何でも使うという感覚が多いと思います。

海沿いは甘く、内陸はしょっぱい?地域で異なる醤油の塩加減

「九州の醤油は甘い」そんな話を耳にしたことってありませんか?九州では、定番の醤油が甘く、南にいくほど甘さが強くなり宮崎県の南の地域や鹿児島県は特に甘いんですよ。全国各地の醤油蔵を回ってみてわかったのですが、甘い醤油は九州だけじゃないんです。九州以外でも、甘い醤油が好まれる地域は意外と多く、日本海側の地域では甘い醤油が好まれているように感じています。日本海側沿いの中で比べると、能登半島の先端の輪島のあたりは特に甘い醤油だと思います。はっきりと境界線が引けるわけではないのですが、四国、中国、北陸、東北地方は甘い醤油が流通していて、特に海沿いの地域は甘さが強く、内陸はしょっぱい醤油が好まれるなんて話もあります。海で仕事をしていると甘みを求めることや、獲れた魚が新鮮で身もしっかりしているので醤油をはじいてしまう。そのため、より醤油の味わいを強くしたりとろみを付けたりした醤油が好まれます。逆に、山仕事でたくさん汗をかいた後はしょっぱいものの方がおいしく感じるから、内陸では塩味の強い醤油が好まれるなどという話もあるんですよ。

独特の存在感をはなつ中部地方「発酵のテーマパーク」

中部地方には、醤油、八丁味噌などの豆味噌、三河のみりん、酢、日本酒。たくさんの種類の発酵がぎゅっと凝縮されています。発酵という視点で見ると、バラエティーが豊かすぎる地域です。
このエリアには、熟成期間が長くうま味にあふれる濃いめの溜醤油と淡口醤油よりさらに色が淡くあっさりした白醤油の両極端な醤油の生産地が集中しています。この独特の食文化の中心にあるのが、豆味噌なのだろうなと感じています。豆味噌は、大豆が主原料のうま味が強い味噌です。中部地方の名物「味噌カツ」や「どて煮」など、料理全体が濃いめの味に慣れていくと、普通の醤油の味付けでは物足りなく感じてしまうのでしょうね。そして、濃い溜醤油が浸透するほどに、なんでも濃くなってしまうということで対極にあるような白醤油がでてきたという。なかなかにおもしろいエリアです。

今回ご紹介する商品はコレ!

醤油の地域性を感じる3本セット
¥1,350(税込)

醤油の達人高橋万太郎さんおすすめの、初心者でも使いやすい醤油3本セットです。
今回は、地域性あふれる3エリアからふだんの料理にも使いやすい3つの醤油をセレクトしました。

詳しく見る
龍野本造りうすくちしょうゆ

龍野本造りうすくちしょうゆ(末廣醤油

国産大豆・小麦を使った正統派の淡口

おすすめの使い方:おすいもの、だし巻き卵

何に使っても失敗しない淡口醤油です。少量で塩味が効いて色もキレイに。だしや素材そのものを活かした上品な料理に仕上がります。淡口醤油の未経験者は一度はお試しを。

こいくち 甘露

こいくち 甘露(吉村醸造

煮物にも使える鹿児島の甘口の定番

おすすめの使い方:里芋の煮物、肉じゃが

吉村醸造の代表作。コクのあるうま味と奥深い甘みのバランスが良い鹿児島の定番甘口醤油です。料理の味を調えやすく、これだけで煮物がおいしくできると関東の方にも人気。

尾張のたまり

尾張のたまり(丸又商店

濃厚な溜に熱烈なファンも多い

おすすめの使い方:ステーキ、やきもち

大豆と塩だけの溜。小麦は一切使っていません。仕込み水が少なく熟成期間が長い溜の中で、一番濃厚な味わい。塩味もうま味もバランスが取れています。熱を加える料理にも。