第3回[現場の話]400の蔵元を訪問して感じる「よいつくり手」とは?

〜 第3回 〜
[現場の話]400の蔵元を訪問して感じる「よいつくり手」とは?

職人醤油 高橋万太郎

職人醤油 代表 高橋万太郎
全国400以上の醤油蔵を訪問し、セレクトした醤油を販売する「職人醤油」代表。前橋本店のほか東京の松屋銀座店にも出店している。

今回は、醤油のつくり手についてお話させていただきます。
前回まではこちら

よいつくり手を定義するのは難しい

この業界に飛び込んだ最初の頃は、国産大豆や有機原料などを使って醤油をつくる人が、よいつくり手だと思っていました。けど、すぐに気づくんです。商品のラベルやスペックの情報だけで判断することはできないと。すると、判断基準は生産者の人柄になります。この人は信用できるなとか、その人を好きになれるかという基準です。これはあながち間違っていないと思っていて、実際にそのような生産者の商品はお客様の反応もいいことがほとんどです。

そして、最近しっくりきているのは「自分の言葉で話ができる人」です。ものづくりに真剣に向き合っている人は、それはもうたくさん考えています。異分野にもアンテナを張るし、興味関心のレベルが高い。試行錯誤の量もすごくて、そのような人たちが話す言葉には妙に納得してしまう力があるもの。今回はそんな3つの蔵元をご紹介したいと思います。

製造現場も設備も常識が通用しない大久保醸造
長野県松本市

長野県松本市にある大久保醸造さんと出会ったのは10年以上前です。朝の9時くらいに伺って、帰路についたのは18時過ぎ。外は真っ暗になっていて、初訪問で9時間以上も居座ったのはもちろん初めてでした。その最初の話題はみかんジュースについてでした。「果汁100%のミカンジュースってあるよね、そして濃縮還元のジュースもある。両方とも果汁100%って書いてあるけど、なにが違うと思う?」という突然の投げかけでした。どう答えるのが正解か、頭をフル回転させていたのを覚えています。大久保さんの答えはこうでした。「濃縮還元は水で果汁100%の基準まで薄める。でも、こっちのは樹液だよね」。

そして、蔵の中を案内いただくとさらなる驚きが続きます。工場は3階建てで一番上の階で仕込み作業をするのですが、蒸した大豆と炒られた小麦は床の穴から2階に落とされます。「重力の力を使って落とせば楽さ。移動距離も最短だから雑菌の汚染も最小限になる」。言われれば納得の合理性です。そして、1階に並ぶ木桶には漆が塗られていて濃い茶色に輝いています。これも初めて見る光景でした。その理由をたずねると、「桶の内側に住み着く微生物が大切だと思っているんだよ。外側は雑菌などの温床にもなるから綺麗にしたい。徹底的にね」と、何を聞いても「大久保さん理論」が返ってくるのです。

木桶仕込みは楽しいと話す片上醤油
奈良県御所市

脱脂加工大豆という醤油の原材料があって、流通している醤油の約8割がこれからつくられています。精油メーカーが大豆から油を抽出するとたんぱく質が残るのですが、それを醤油づくりに適するように加工したものです。「大豆の搾りカス」なんて表現する人もいますが、奈良県御所市にある片上醤油の片上さんは否定どころか、脱脂加工大豆はすごいよとロジカルにその優位性を語ります。ところが、たっぷりと脱脂加工大豆のよさを話しておきながら、片上醤油では脱脂加工大豆を使っていないというのです。「相手を貶めて、自分を優位に見せるのはあきませんよ。私らが地元の奈良県産の大豆を使いたいのは、うちのお客さんにこの大豆で作っていると、実物を見せたいからなんですよ」といいます。

そして、伝統的な醸造容器である木桶が並ぶ蔵のなかで、どうして木桶を使うのか?に対する答えも明快でした。「木桶で仕込みをしていると、たまに自分の技術では到底できない醤油になることがあるんですよ。どうしてそうなるか?私には分かりません。でも、びっくりするような醤油になって、あの驚きと喜びを知ってしまうとやめられない。木桶で仕込みって大変だけど、楽しいんですよ」と。

当たり前の基準がとにかく高い七福醸造
愛知県碧南市

初めての訪問での印象が特に強かったのは愛知県碧南市にある七福醸造です。敷地の隅に車を停めて事務所に向かい歩いていると、荷物を運ぶフォークリフトが停まりました。明らかに荷物を下ろす場所ではなかったので、どうしてだろうと思っていると、その人が地面に降りて、「いらっしゃいませ!」と大きな声とキチッとしたお辞儀で挨拶をしてくれたのです。製造現場は比較的シャイな方が多いもの。その驚きを事務所で伝えたところ、「当たり前のことですから」と、いたって落ち着いた答えが返ってきました。

続いて案内された工場内がまたすごい。床や壁はもちろん、製造設備もどれもピカピカ。「新品ですか?」と思わず口にしていました。大豆を蒸すための大型の圧力釜の表面は鏡のように光っていますし、40年間も使われている濾過機は新品と思えるほどの状態。使用する度に磨くのだそうですが、もはや掃除の域を超えています。犬塚元裕社長に「とにかく驚きました」と伝えると、「マニュアルって忘れてしまうこともあるじゃないですか。だけど、当たり前になってしまえば忘れませんからね」という言葉が返ってきました。毎朝8時から1時間かけて、それぞれの担当場所をチリひとつないように徹底的に磨いているそうです。

他にもたくさんの素敵なつくり手がいますが、共通しているのは借り物ではなく自分自身の言葉で話をしているということ。このようなつくり手が手がける醤油は個性があって、とても魅力的なんです。

今回ご紹介する商品はコレ!

よいつくり手を感じる醤油3本セット
¥1,566(税込)

それぞれ異なる蔵元が手掛ける醤油で、醤油の地域による個性を感じていただける醤油の3本セットです。

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紫歌仙

紫歌仙(大久保醸造

おすすめの使い方:ほうれんそうのおひたし、漬物、焼いた油揚げ

数量限定で搾る三年熟成の濃口醤油/原料にも製法にもこだわりにあふれた大久保さんが手掛ける濃口。年間で搾る時期が決まっているので期間限定です。米を入れることで濃厚だが塩辛くなく、まろやかな味わいに。
うすくち天然醸造醤油

うすくち天然醸造醤油(片上醤油

おすすめの使い方:豆腐、ドレッシング、餃子・焼売のタレに

しっかり味を活かしたかけ醤油にも/自称「食いしん坊」の片上さんが手掛ける個性派。淡口醤油の色と香りのバランスを保ちながら、ぎりぎりまでうま味の強さを追求。見た目は濃いめ。かけ醤油にも使っても。
有機白醤油

有機白醤油(七福醸造

おすすめの使い方:出汁巻き卵、卵かけご飯

有機JAS認定の白醤油/JAS有機の小麦、大豆を主原料に、機械圧搾でなく自然抽出の白醤油は、ほのかな甘みに上品な塩味。素材を引き立てたい料理に。