第1回 知っているようで知らない醤油のこと
〜 第1回 〜
知っているようで知らない醤油のこと
職人醤油 代表 高橋万太郎
全国400以上の醤油蔵を訪問し、セレクトした醤油を販売する「職人醤油」代表。前橋本店のほか東京の松屋銀座店にも出店している。
醤油を知ると、食がもっと楽しくなりますよ!
はじめまして。にほんものストアで醤油についての連載をすることになりました「職人醤油 高橋万太郎」です。よろしくお願いします!これから定期的な連載で醤油のことをもっと知ってもらうために、詳しく、わかりやすく紹介していきます。
日本の食文化に欠かせない調味料である醤油。でも、一言で醤油といっても実はたくさんの種類があることをご存知ですか?
ただ、普段の生活で醤油を意識する機会は少ないと思いますし、醤油を買う時に真剣に悩んだことも、きっとないはず。
まして、醤油を素材によって使い分けるなんて考えたこともないかもしれません。でも、それって、少しもったいないと感じてしまうのです。
例えば、お豆腐。大豆のほのかに優しい甘みが立っているところに、濃厚な醤油をかけてしまうと、口に運んだ時にはすべてが醤油の味わいに。せっかくの繊細な味わいに台無しです。
こんな時は、醤油の主張は抑えめで、少し塩味が強調された淡口醤油がおすすめ。スイカに塩をかけると甘みが増すのと同じ原理で、塩味が素材を引き立ててくれます。
逆に、リーズナブルなお肉を買ってきてステーキにする時には溜醤油がおすすめ。熟成期間が長くうま味たっぷりの醤油が、素材の少々の物足りなさは、しっかりカバーしてくれます。溜醤油と肉が口の中で一体になり、自然の極上ソースに早変わりってわけです。
発酵によってつくられる醤油の魅力
醤油の主原料は大豆と小麦、それに塩です。そして、醤油づくりの主人公は、目に見えない小さな生物たち。麹菌や乳酸菌、酵母菌といった微生物が、まるでバトンリレーをするように、次々と主役の立場を入れ替わりながら、あの香ばしい香りとうま味に満ちた液体をつくり出します。
酵母菌といえばビールや日本酒でお馴染みのアルコールをつくる微生物。醤油も酵母菌が働くので2~3%のアルコールが含まれています。そして、醤油の一番の魅力といっても過言ではない「香り」づくりにも微生物は重要な役割を果たします。甘いカラメルやケーキ、果物や花の香り、コーヒーやチョコの香りなど、その香気成分は300種類以上といわれ、これらをつくり出すのが微生物。しかも、醤油メーカーによってこの微生物の生態系が異なります。同じ原材料で仕込みをしたとしても、そこで活躍する微生物が異なるので、味わいも様々になるのです。
まず、醤油の種類を知ると使い方がイメージしやすい
醤油は大きく5つの種類に分けることができます。白醤油、淡口醤油、濃口醤油、再仕込醤油、溜醤油なのですが、これらを大きく3つのジャンルに分けると特徴を把握しやすいと思います。
白醤油と淡口醤油は見た目が淡くてしょっぱさは強め、素材を活かすタイプです。濃口醤油は万能でどんな素材や調理とも相性よし。再仕込醤油と溜醤油は熟成期間が長くうま味は豊富ですが、色は濃厚なタイプです。
素材を生かす名脇役な白醤油
おすすめの使い方:炊き込みごはんや茶わん蒸し
琥珀色をした醤油で色の淡さが特徴。うま味は抑えてあり塩味は強め。素材を活かすことにかけては抜群です。炊き込みごはんに使うと醤油の色がつかず、お吸い物や茶碗蒸しなども彩り豊かに仕上がります。全国的に見ても白醤油の専業メーカーは少なく、愛知県碧南市が主産地。白醤油にだしを加えたのが白だしです。料理をしない人は持て余してしまうかもしれません。ただ、卵かけご飯に使うと、卵そのものを味わえると人気だったりもします。
出汁の風味や素材の色味を生かす 淡口醤油
おすすめの使い方:煮物やお吸い物、かけて使ってもOK
仕込み期間を短くして色を抑えた醤油。そのままなめるとしょっぱい印象はありますが、醤油のうま味と香りをしっかり実感できます。西日本ではよく使われる醤油で、煮物やお吸い物など、素材の彩りや出汁を活かしたい料理に使われますが、塩やレモンの代わりにかけて使うこともできます。白身のお刺身や美味しいお豆腐など、繊細な素材をそのまま食したい時に使ってみてください。
うま味と香りのバランスがGOOD!万能タイプの濃口醤油
おすすめの使い方:料理全般
万能タイプで、うま味と香りのバランスをとっています。流通量の8割はこれで、北海道から沖縄まで各地で生産されています。つけ醤油から料理用途まで何にでもよくあいます。近年、テレビCMなどで醤油の鮮度を耳にする機会が増えましたが、醤油は開栓すると酸化して色が濃くなり風味が劣化してしまいます。新鮮な醤油はきれいな赤色をしていて風味も豊か。新鮮なものは綺麗な赤褐色です。
うま味が凝縮。長期熟成の再仕込醤油
おすすめの使い方:お刺身、揚げ物、バニラアイスにも
一度搾った醤油をそのまま仕込み水代わりに使う醤油で、濃口醤油に比べて2倍の原料と2倍の期間を要します。熟成期間の長い濃厚な醤油ですが、味と香りのバランスがよく、刺身に合わせる醤油として、まずお試しいただきたい醤油。大手メーカーが積極的に手掛けないタイプの醤油なので、小規模のこだわり醤油を目指す蔵元が手掛ける傾向があるように感じています。ソースをかけて食したい素材との相性がよく、トンカツなどの揚げ物やカレーにちょい足し、バニラのアイスクリームにかけるとキャラメル風味になります。
大豆のうま味が凝縮 溜醤油
おすすめの使い方:照り焼き、ステーキ、赤身の刺身
仕込み水も少なく、熟成期間は長め。三年熟成などもよく耳にします。色が濃くてとろみと独特の香りが特徴で、うま味の量は醤油の中でもトップクラスです。中部地方が主産地。そのままつけ醤油としてはもちろん、照り焼きに使うと綺麗な照りがでると好評です。中には小麦を使わずに大豆と食塩のみの溜醤油もあり、グルテンフリー醤油として海外からも人気があります。
実際には同じ種類の中でも、生産者が異なると様々な個性があります。でも、まずはこの5種類で味比べをしていただくと、その違いに驚いていただけるかもしれません。百聞は一見にしかずと言いますが、ぜひ一度お試しいただくと、食をもっと楽しむための新しい視点に気づいていただけると思います。
有機白醤油(七福醸造)
有機JAS認定の白醤油
おすすめの使い方:出汁巻き卵、卵かけご飯
JAS有機の小麦、大豆を主原料に、機械圧搾でなく自然抽出の白醤油は、ほのかな甘みに上品な塩味。素材を引き立てたい料理に。「料亭白だし」の原料となる白醤油です。
天然醸造 うすくち生醤油(正金醤油)
火入れ処理をしていない生タイプ
おすすめの使い方:肉じゃが、うどんつゆ
国産の大豆と小麦を木桶で仕込んだ淡口醤油。しかも、火入れ処理をしていない生タイプ。塩味が後からくるので少し優しく感じます。塩辛さとうま味のバランスが抜群!!
百寿 (石孫本店)
石孫本店に機械はありません
おすすめの使い方:じゃがバター、酢醤油で餃子に
同業者が驚く程に昔ながらのつくりを守り続けている蔵元。どんな素材にもあう万能タイプでリピーター多し。百寿独特の香りが特徴。熱々のじゃがいもをバターとこの醤油で。
手造りかけ二段仕込み熟成三年 (岡本醤油)
再仕込醤油の入門編としておすすめ
おすすめの使い方:トンカツ、焼きうどん
フェリーでしか行けない広島県大崎上島。全量が木桶仕込みという珍しい蔵元です。三年熟成もクセがなく使いやすい醤油なので、刺身やとんかつ、フライにソース代わりに
つれそい(南蔵商店)
濃いだけでなく美しさも感じる溜
おすすめの使い方:マグロの刺身、厚揚げ焼き
濃厚な赤褐色で見た目もきれい。原料は大豆と塩だけでうま味の凝縮は最高レベル。口に入れると甘みも感じながら、奥行きのあるコクを堪能できるはず。お刺身から調理まで。